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短歌表現辞典(天地・季節編)(17)  八月・季節(17)  ざんしょ(残暑)(2)

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8月23日(土)
 
短歌表現辞典(天地・季節編)(17)
 
1998年2月10日発行:飯塚書店
 
八月・季節(17)
 
ざんしょ(残暑)(2)
 
立秋を過ぎてから九月中旬までの暑さである。夏の暑さに耐えて、やっと涼しさを覚
 
えた身にとり、さらにつづく日中の暑さはつらいものである。秋暑し。残る暑さ。暑
 
秋。
 
咲きそめし百日紅の花陰に残者を凌ぐ老犬とわれ              長沢一作
 
ぢりぢりと残暑きしけり落蝉も髪切虫もひそむ草むら            馬場あき子
 
まれに逢ふ秋暑の日にて砂に落ちし青き胡桃のごとくゐたりき      板宮清治
 
昼すぎの残暑の畑に里芋の厚き葉おのおの青き陰布(し)く        樫井礼子
 
君あての残暑見舞はただ一行<この夏あなたは揺れてましたか>  道浦母都子
 
フェミニストのきみがもろ手で剥いてゆくとうもろこしの毛深き残暑    渡辺松男
 
(つづく)
 

鑑賞:歌集「悲しき玩具」(二十三)(下書き)  

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鑑賞:歌集「悲しき玩具」(二十三)(下書き)           後藤瑞義
 
()歌の順序は歌集の順序によります。
 
曠野(あらの)ゆく汽車のごとくに、
 
このなやみ、
 
ときどき我の心を通る。
 
「曠野(あらの)」:自然のままに荒れた野、辞書にはそのように書かれています。
 
啄木は一年余り北海道を、函館、札幌、小樽、釧路と転々とした経歴があります。
 
その北海道の広大な原野のイメージが私にはします。そのような広大な「原野を
 
走る汽車のようだ」といっています。時代は明治です、明治時代の汽車が、どんな
 
イメージだったのでしょうか。明治に入って西洋文明がどっと日本に入って来まし
 
た。汽車はその象徴的なものではないでしょうか。なにもない荒野をさっそうと走
 
る汽車、これぞ文明の粋(すい)といえるでしょう。
 
その荒野を(さっそうと)走る汽車が、「このなやみ、」というのです。それでは、「この
 
なやみ」とはどんな悩みなのでしょうか。啄木には、啄木に限ったことではないので
 
すが、色々な悩みがあったのでしょう。「このなやみ」、「あのなやみ」、「そのなやみ」
 
…、色々ある悩みのなかの「このなやみ」なのです。それでは、具体的に「このなや
 
み、」とはどんな悩みなのでしょうか。貧困に悩んだ啄木、家庭内の不和に悩んだ啄
 
木、色々な悩みを持った啄木でした。その中で、「この悩み」は汽車のようだと言って
 
いるのです、それも何もない荒野を走る汽車、西洋文明の象徴のような汽車…。西
 
洋文明に対する悩み、西洋文明に対する劣等感、科学的なものに対する劣等感、
 
そんな風に解してはどうなんでしょうか。それは、科学や機械文明というだけでなく、
 
たとえば分析的に考える、科学的な思考方法、そんなものが全く欠けていたと意識
 
した明治時代の青年啄木ではなかったか、そんな気がします。
 
 西洋文明に対する劣等感、科学的分析的な思考に対する劣等感がときどき心を
 
よぎるということではなかったか。汽車イコール西洋文明、科学的思考とすると、曠
 
野イコール啄木の心、ということになります。
 
 曠野のように何もないわが心よ、そこに汽車のようにさっそうと西洋文明、西洋の
 
科学的思考が通りすぎて行く…、こんな感じでしょうか。
 
 悩みというとすぐマイナスイメージを思い浮かべます。そこで、曠野のような心こそ
 
が悩みのイメージだとわたしなどは思うのですが、「なやみ」が逆にさっそうと曠野を
 
走る汽車のようだというこの発想の逆転に啄木の複雑な心境を感じるのです。
 
 啄木が一般的な短歌の表記方法である一行書きを廃し、かたくなに三行書きにし
 
た、分けることにこだわった。このこだわりにこそ、わたしは、啄木の西洋の科学的
 
分析的思考に対する劣等意識を感じるのです。
 
 
 
曠野(あらの)ゆく汽車のごとくに、
 
このなやみ、
 
ときどき我の心を通る。
 
 
 

後藤人徳の短歌(108)  戦争の子供たち

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 後藤人徳の短歌(108)
  
8月24日(日)
平成13年の歌のまとめ(6) 
 戦争の子供たち
 戦(いくさ)しか知らぬ子どもが親となりその子どもらもまた争うか
 タリバンやジャララバード、カンダハル悲しき記憶となり残るらむ
 悲しみの画面に笑うわれの癖を咎める妻よ分かってほしい
 月掛けに一万円を二年間いま百円の利息受取る
 加算税、延滞金利は高利にて零細企業に重き国税
 流れゆく水を見ているわが影よひとつところにとどまりていて
 ねじれたる茎となりたるコスモスもけなげに同じ花咲かせいる
 

「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より   「最大事業」

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8月24日(日)
 
「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より
http://www.izu.co.jp/~jintoku/utimura10.htm
 
原文は文語調、後藤人徳の口語訳および意訳の個所もあり。
 
「最大事業」
 
国の産業を興すのも事業です、善政を布(し)くのも事業です、教育を施す
 
のも、大文学を産むのも事業です。しかしながらこれ以外にもう一つ大事業
 
があります。そうです、イエスキリストを世の中に紹介する事業がこれで
 
す。イエスは食べ物であり、飲物です。イエスは心霊的天地です。イエスは
 
人生の必要物です。人はイエスによらなければ天なる父に至ることが出来ま
 
せん。ですから、伝道は真面目で確かなる事業です。そうです、橋を架ける
 
よりも、運河を造るよりも、難しいがたいへん有益な事業なのです。
 

昭和萬葉集(巻五)(182)(昭和十五年~十六年の作品)  Ⅲ(19)

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 8月24日(日)
 
昭和萬葉集(巻五)(182)(昭和十五年~十六年の作品)
 
講談社行(昭和55年)
 
Ⅲ(19)                          
 
はてなき戦線(19)
 
突撃(1)
 
千田綾人
 
皇紀二千六百年元旦総攻撃に移るとき戦友の屍(かばね)に火を点(つ)け
 
しなり
 
江村樹人
 
黎明(れいめい)攻撃の位置につきたれば今はしものこれる飯を水かけてく
 
 
鈴木正巳
 
砲声に更(ふ)くる今宵は突撃の機至るまで雪に臥(ふ)しけり
 
飯田八郎
 
芍薬(しやくやく)の白きがあまたゆらぎゐる瞳(ひとみ)こらして敵うか
 
がへば
 
真島 武
 
先い行く兵とどまれば間(あいだ)あり泥手に取りて塗る鉄兜
 
奪ひたる壕に飛び入り緩(ゆる)む気か弾丸(たま)しきり行く晴れたる空
 
 
(つづく)
 

原 昇遺歌集  「人生行路」(新星書房)(54)  嫁ぐ娘

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8月24日(日)
原 昇遺歌集
 
「人生行路」(新星書房)より(54)
 
発行者:後藤瑞義
 
 平成元年~六年
 
嫁ぐ娘
 
万博のジェットコースターに嬉嬉とせし幼のままに嫁ぎてゆくか
 
明日の己がウエディングケーキ作りきし娘のを指ややに荒れをり
 
今日嫁ぐ娘をかこみ朝餉する窓に東京の秋空は晴る
 
入場の新婦のあよみ涼しかりその父うたふ長持唄に
 
三三九度の杯今うくる愛娘見よや懐のうつしゑ
 
秋の宵引出物なる酒なめつつ娘を嫁がせし吾娘をしおもふ
 
新郎のピアノに合わせわが新婦うたひし声はまだ耳にあり
 
(つづく)
 

日本の詩歌29短歌集(53) 公文庫 尾上柴舟(13)

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8月24日(日)
 
日本の詩歌29短歌集(53)
 
中公文庫:1976年11月10日
 
尾上柴舟(13)
   
血を吐きて猶(なほ)働くとあな無惨(むざん)煙の中に硫黄(いわう)採(と)る子ら
 
藍(あゐ)深き水を見せつつ霧は散るさびたの花の白き崕(きし)より
 
大き木の下に腰すゑ老(おい)あいぬ物彫(ほ)る見れば雫(しづく)止むらし
 
(以上『素月集』より)
 
見出でつる物懐(なつか)しさ深山のおどろが中のキャラメルの箱
 
帰り来る来ぬを定めぬ人に歌ふ「ここは御国は」何の心ぞ
 
荒畑の末にをりをり湧き上り白白見ゆる天滝の波
 
(つづく)
 

短歌表現辞典(天地・季節編)(18) 八月・季節(18) 

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8月24日(日)
 
短歌表現辞典(天地・季節編)(18)
 
1998年2月10日発行:飯塚書店
 
八月・季節(18)
 
あきちかし(秋近し)(1)
 
まだ衰えない暑さの中にも雲や風の動きなどに秋の近づく気配を感じて、秋の来る
 
のを待つ心持が強くなる。秋近づく。秋に傾く。秋の気配。
 
遠々し牧の上の空の真しろ雲秋のこころはすでに動けり         佐佐木信綱
 
宵よひの峡(はざま)にふかき天の川真(ま)うへに澄みて秋ちかみかも 中村憲吉
 
吹く風は秋の近づく気配にて葉づれ親しき露台の幾鉢            荒井 孝
 
丹田にちからを入れて考えし雨の一夜は秋に傾く             岡部桂一郎
 
思ふことなげに乙女が編む毛糸八段すぎて秋近きかな          馬場あき子
 
何気なく高く上げたる手の先に秋の気配が触れてゆきたり          後藤 哲
 
(つづく)
 

後藤人徳の短歌(119) 平成13年の歌のまとめ(7)  式服

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後藤人徳の短歌(119)
 
同人誌「賀茂短歌」より
 
8月25日(月)
          平成13年の歌のまとめ(7) 
式服
 式服を着て東京に向いたり伊豆の下田は朝まだ暗き
 ラケットを座席に寝かせいっしんに髪をとかしている女学生
 熟したる柿の実色に雲を染め富戸(ふと)海上を昇る太陽
 鮮血で染まりしことは昔なりイルカの漁の今なき川奈
 妻病むを口癖としてその責めを少しも己に帰せざるわれか
 

「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より   幸福な生涯

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8月25日(月)
 
「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より
http://www.izu.co.jp/~jintoku/utimura10.htm
 
原文は文語調、後藤人徳の口語訳および意訳の個所もあり。
 
幸福な生涯

神のお命じなされるままに従い、神に導かれ、神に養ってもらう。
 
そんな日々ですから、これといった特別の人生計画があるわけでは
 
ありません。ですから、重い責任を負うこともありません。飢える
 
恐れも感じません。人に媚び諂うこともないのです。毎日、毎日神
 
にしたがって働き、喜びの日々を送るのです。希望は日々に大きく
 
なってゆきます、そして一日一日が感謝の連続です。このような人
 
生ですので、七度生まれ変わることが出来ても、いまの生活を送り
 
たく思うのです。
 

昭和萬葉集(巻五)(173)(昭和十五年~十六年の作品)  Ⅲ(21)

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8月25日(月)     
 
昭和萬葉集(巻五)(173)(昭和十五年~十六年の作品)
 
講談社発行(昭和55年)
 
Ⅲ(21)
 
はてなき戦線(21)
 
突撃(2)
 
神子嶋正雄
 
敵弾がわが胸の辺を射抜きゆくは今か今かと思ひつつ駈く
 
平野与志雄
 
突撃の距離に入らむと匍匐(ほふく)して進む左右の戦友(とも)倒れたり
 
野村 薫
 
煙草あと幾日有(ある)らむ突撃の汗癒(い)えたれば図嚢(づなう)に数
 
 
土色に水を吸ひたるそこばくの煙草を乾かす弾丸の死角に
 
原 順
 
山頂の壕下(がうか)に迫りし我が散兵敵の手榴弾に追ひ下げられつ
 
小山正二
 
時折は流れ弾(だま)あれど敵去りし稜線白み夜は明け初(そ)めぬ
 
 
(つづき)
 

原 昇遺歌集  「人生行路」(新星書房)(55)  明窓

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8月25日(月)
原 昇遺歌集
 
「人生行路」(新星書房)(55)
 
発行者:後藤瑞義
 
平成元年~六年
 
明窓
 
かきいだき注連飾結ふ墓石かそけく返す冬日のぬくみ
 
金比羅の坂ひと息駆けのぼり日の出おがみし脚も年こゆ
 
赤道を早も越えゆけ遊学の孫への年始のこのエアメール
 
炬燵居にしくしく思ふ雪つもるかの門前町の店の甘酒
 
荒されしキャベツ畑に防鳥網を張りめぐらすが初仕事なる
 
鉢菊の冬至芽はやせば脚はずみ腐葉土づくりの落葉踏みしむ
 
咲きさかるデンドロビュウムの窓に映え大寒の雲来よと動かず
 
三四輪さける梅の枝影しるくさせゆく窓べに添削はかどる
 
(つづく)
 

日本の詩歌29短歌集(54)  尾上柴舟(14)

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8月25日(月)
日本の詩歌29短歌集(54) 
 
中公文庫:1976年11月10日発行
 
尾上柴舟(14)
 
霧こむる峡(かひ)のいづこにある村ぞ段段畑(だんだんばたけ)川に迫れり
 
出でて征(ゆ)く人のここにもありつるか霧に濡(ぬ)れたる旗静かなり
 
かかる事喜ぶ父のありなばと我よりも妻の思ひゐるらし
 
部隊長命じかねつつ命ずらし軍中髯の顔やや動く
 
迫り来る年を迎ふとつく餅(もち)にますらをのこは歌もうたはず
 
徐(おもむ)ろに列(れつ)はも動く楽の音の低くかなしく導くままに
 
 (つづく)

短歌表現辞典(天地・季節編)(19)  八月・季節(19) あきめく(秋めく)

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8月25日(月)
 
短歌表現辞典(天地・季節編)(19)
 
1998年2月10日発行:飯塚書店
 
八月・季節(19)
 
あきめく(秋めく)
 
八月も末になると、暑さの中にも山川草木などが秋らしくなり、目にも耳にも秋の風
 
情が濃く感じられるようになる。秋立つ、秋くるよりも作者の思いがこめられる。秋づ
 
く。
 
百日紅真紅(しんく)に咲ける花むらのありてうつくし秋づける庭      窪田空穂
 
秋づきて小さく結(な)りし茄子の果を籠(こ)に盛る家の日向に蠅居り  斎藤茂吉
 
何げなくたべむと思ふたべものも秋めくものかこもりてをるに       若山牧水
 
秋づけばしばしば来(きた)る驟雨にて芝生の青の絢爛と立つ      山下陸奥
 
目をあきて秋づきにける夕かげは夢のつづきの如くさみしき       吉田正俊
 
妹が残しゆきたるコートなど母が著給ひ秋づかむとす           河野愛子
 
秋づける今日の歩みは野をすぎて駅前くればあかりが入りぬ     上田三四二
 
(つづく)
 

後藤人徳の短歌(105)  平成13年の歌のまとめ(8)   初春の空

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後藤人徳の短歌(105)
 
8月26日(火)
平成13年の歌のまとめ(8) 
初春の空
柿の木にかかる凧あり正月も六日を過ぎて静なる朝
かすかなる風に炎のゆらぐとき蝋燭立ての濃き影を知る
一年の役目はたしたダルマたち両眼となり火にくべらるる
大ワニの口にもがける一頭を残してムーの大群渡る
庭に来て日課のごとくひよどりが妻の投げやる餌を待ちおり
梅の実のころにひとたび訪いし師の奥津城に今花咲きをらむ
厚き雲割り太陽は出(い)でんとす寒き朝(あした)の祈りにも似て
父母(ちちはは)が耕しおりし田に生えて雑木(ざつぼく)の幹われより太し

 

「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より   救済(すくい)

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「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より
 
原文は文語調、人徳の口語訳および意訳の個所もあり。
 
8月26日(火)
 
救済(すくい)

救済は徹頭徹尾神の聖業(みわざ)です。人が出来る事では有りません。神
 
の恩恵をもって、信仰によりわたしたちは救われるのです。自分の力では有
 
りません、神の賜物です。神がわれわれに臨む時には恩恵をもってなさいま
 
す。わたしたちはただ神を信仰するだけで、恩恵に浴し救われるのです。
 
 
 
 

昭和萬葉集(巻五)(180)(昭和十五年~十六年の作品 ) Ⅲ(21)

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8月26日(火)
 
昭和萬葉集(巻五)(180)(昭和十五年~十六年の作品
 
講談社発行(昭和55年)
 
Ⅲ(21)
 
はてなき戦線(21)
 
敵兵(1)
 
生井武司
 
ほとばしる谷に添ふ路(みち)朝明けてひそひそ白旗かかげて来るよ
 
夜なかより戦ひとりし山をめぐり日暮れみなぎる敵の声かも
 
庭山良一
 
月明き谿(たに)をへだて敵兵の米搗(つ)く音が幽(かそ)かにひびく
 
川口比良男
 
白々(しらじら)と夜の明けそめぬ心やや安らぎし時敵また現はる
 
安部保彦
 
ま裸になりて山もとに壕ふかく掘りゐる敵が眼鏡にて見ゆ
 
大上春秋
 
重傷(ふかで)負ひ泳ぎ逃げゆく敵の兵射(う)つをとどめてわれは見にけ
 
 
市村光雄
 
弾(たま)うけし敵匪はいまだ息あれば手を合せをり刺すにしのびず
 
大前義臣
 
燃え上る部落の中よりよろめきていでし敵はうら若き少年
 
(つづく)
 

原 昇遺歌集  「人生行路」(新星書房)(56) 流れつつ

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8月26日()
 
原 昇遺歌集
 
「人生行路」(新星書房)(56)
 
発行者:後藤瑞義
 
 平成元年~六年(36)
                                                                                                                                             
  流れつつ
母がため渡りて鯛を釣り上げし小島は起き臥し今に変らず
 
母と妻ひた嘆かせし購書慾なぜか老いつつ募りゆくのみ
 
墓の供花おほかた枯れし砂丘にほつほつ咲けり浜大根の花
 
古寺の空穂の歌碑に来て対へ刻字うすれて湧くなり旅愁
 
木の芽雨しづかに降るも初着帯に孫は水天宮詣でせしとふ
 
疾にぞ早くも父母を逝かしめし仇君うつと医師を励むか
 
啄木鳥にあまた穿たれし校舎の羽目同僚(とも)らと繕ひき如何になりけむ
 

日本の詩歌29短歌集(55) 中公文庫  尾上柴舟(15)

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8月26日(木)
日本の詩歌29短歌集(55)
 
中公文庫:1976年11月10日
 
尾上柴舟(15)
   
誓ひつつ出でにしままに帰れれどあはれちひさく真白き包
 
額(ぬか)たれて群だち迎ふ中を行きて声もなきかな帰れる人は
 
春寒き雨の舗道をうなだれて黒衣の人ら濡(ぬ)れつつ履(ふ)むも
 
鳥去(い)にてなにの音なき林道(はやしみち)白きマスクの女が来(き
 
た)る
 
梢梢(こずゑこずゑ)うすくれなゐを漲(みなぎ)らせ咲かむとしつつ花い
 
まだ咲かず
 
桜咲く山にむかひて枯れ枯れと並ぶ墓山木山萱山(かややま)
 
 

短歌表現辞典(天地・季節編)(20)  八月・季節(20)  はつあき(初秋)(1)

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8月26日(火)
 
短歌表現辞典(天地・季節編)(20)
 
1998年2月10日発行:飯塚書店
 
八月・季節(20)
 
はつあき(初秋)(1)
 
暦の上では立秋を過ぎて間もないころをいう。陽歴の八月なので日中の暑さは強い
 
が、朝夕はめっきり涼しくなり、さわやかさを覚える。しかし生活実感からいうと九月
 
に入ってからである。新しき秋。はじめの秋。初秋。秋初め。秋浅し。
 
 
蜂蜜の青める玻璃(はり)のうつはより初秋きたりきりぎりす鳴く 与謝野
 
晶子
 
わすれ行きし女の貝の襟止(えりどめ)のしろう光れる初秋の朝 前田夕暮
 
涙あまし悲しむことをよろこぶと歎けばいつかはつ秋に入る   吉井 勇
 
はつ秋のほのひかり吹きてさやさやと何か笑ましく風の行くあり 中村憲吉
 
(つづく)
 
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