古今和歌集(487)
岩波文庫より
校注:佐伯梅友
古今和歌集巻第十八(31)
雑歌下(31)
寛平の御時に、唐土(もろこし)の半官 ( ほうぐわん )にめされて侍りける
時に、東宮のさぶらひにて、をのこども酒たう
べけるついでによみ侍りける
ふぢはらのたゞふさ
九百九十三 なよ竹のよながきうへに 初霜のおきゐて物を思ふころかな
唐土の半官―遣唐使の大使・副使に次ぐ官。
題しらず
よみ人しらず
九百九十四 風ふけば沖つ白波たつた山 夜半にや君がひとりこゆらん
ある人、この歌は「昔、大和の国なりける人の女 ( むすめ )に、ある人すみわたりけ
り。この女 ( おんな )、親もなくなりて、家もわるくなり行くあひだに、この男、河内
の国に人をあひしりて通ひつゝ、かれやうにのみなりゆけり。さりけれど
も、つらげなるけしきもみえで、河内へいくごとに、男の心のごとくにし
つゝいだしやりければ、あやしと思ひて、もしなきまに、異 ( こと )心もやあるとう
たがひて、月のおもしろかりける夜、河内へいくまねにて、前栽 ( ぜんさい )のなかにか
くれて見ければ、夜ふくるまで、ことをかきならしつゝうちなげきて、この
歌をよみてねにければ、これをきゝうちなげきて、この歌をよみてねにけれ
ば、これをきゝ7て、それより、又外へもまからずなりにけり」となん言ひつ
たへたる
初句、二句:立つといいかけた枕詞。三句~五句:竜田山をこの夜中にあの方が
ひとりで越えているだろうか。さぞさびしいことだろう。○すみわたりけり―夫として
ずっと過ごしていた。後文で見ると同棲していたと見える。○かれやうにのみ―この
女から離れてゆくかっこうばかり。○男の心のごとくに―男の欲するように。○もしな
きまに…ひょっと、自分のいない間に、他の男を引きいれでもするのかと疑って。
(つづく)