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昭和萬葉集(巻五)(167)(昭和十五年~十六年の作品)  Ⅲ(8)

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8月13日(水)
 
昭和萬葉集(巻五)(167)(昭和十五年~十六年の作品)
 
講談社行(昭和55年)
 
Ⅲ(8)                              
 
はてなき戦線(8)
 
戦場にて(6)
 
遠藤達一
 
討伐より戻れる夜に酒を呑み酔ひしれてゐる心よりどなし
 
内川向造
 
保線兵の連絡なきにいらちつつ応答のなき電鍵(キー)を叩けり
 
佐々木茂二
 
キー打てど対所応(こた)へず頼みせる部隊の後尾も既に没して
 
林 繁信
 
戦傷兵収容し来る自働車に又新しき弾痕ありぬ
 
山口幸太郎
 
前戦より病兵後送に来し兵が駐屯兵を見ていきどほる
 
 
(つづく)
 

原 昇遺歌集  「人生行路」(新星書房)(43)  寒ざくら

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8月13日(水)
原 昇遺歌集
 
「人生行路」(新星書房)(43)
 
発行者:後藤瑞義
 
平成元年~六年 
    
寒ざくら
 
ふる雨に彩あざやけき散り紅葉ひとは秋篠の寺庭にひろふ
 
かにかくに祇園はしたし勇の歌碑流れを背にしてうづくまりたる
 
元旦にきて炬燵に寝入りたり明日帰りゆく遊学の孫
 
孫娘くるる年玉なんと落葉たく良寛えがける色紙のひとつ
 
寒ざくら華やぐ枝かげ流れゆく川の水音たえまのあらず
 
 
(つづき)
 

日本の詩歌29短歌集(42)  尾上柴舟(2)

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8月13日(水)
日本の詩歌29短歌集(42)
 
中公文庫:1976年11月10日発行
 
尾上柴舟(2)
 
憂愁(いうしう)は故人の声し形してわれにこそよれさみだるる夜を
 
わが思(おもひ)野にや残らむ花草のなびけば靡(なび)き揺(ゆ)れば揺れつつ
 
忘れたるものあるここち今日(けふ)もまた夕日の森をうな低(だ)れて行く
 
(以上『静夜』より)
 
ひたぶるに涙ながれてとどまらずああ今日(けふ)の日もわれを照らしぬ
 
昨日(きのふ)まで胸さし馴(な)れしかなしさのやうなるものを今日は欲(ほ)りする
 
おなじ地におなじ木ならび今日もまたおなじ葉と葉とあひ触れて鳴る
 
 
(つづく)

短歌表現辞典(天地・季節編)(7)  八月・季節(7) なつふかし(夏深し) 

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8月13日(水)
 
短歌表現辞典(天地・季節編)(7)
 
1998年2月10日発行:飯塚書店
 
八月・季節(7)
 
なつふかし(夏深し)
 
俳句では、夏のもっとも盛んな土用から八月はじめの頃をいう。しかし短歌ではそれ
 
にこだわらず、夏の季節の終わり、陽暦の八月を詠んでいる作品が多い。晩夏と同
 
時期であるが、夏深しには感慨がこもる。夏闌(た)く。夏深む。
 
あつき日を幾日(いくか)も吸ひてつゆ甘く葡萄の熟す深き夏かな  木下利玄
 
ばんざいの声に送られ征(ゆ)きし人帰りかへらず夏たけにけり   館山一子
 
歌といふ架空の生に夕合歓の睫もち伏せて夏深むかも       山中智恵子
 
ゑのころの生えるにまかせ銭湯のありし跡地も夏たけにけり     角宮悦子
 
 
 (つづく)
 
 

後藤人徳の短歌(108) 九十二歳の師

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後藤人徳の短歌(108)
 
平成11年の歌のまとめ(2)  
 
8月14日(木)
 
九十二歳の師
 
九十二歳病める体を押し来たり面輪(おもは)細りて歌会に師は
 
食細り面輪細れる師なれども歌会(かかい)の席の言葉響けり
 
九十二歳師は声凛と響かせて月一回の歌会を終える
 
厳しかる冬に真向い静かなり白き茶の花柊の花
 
大きなるみ手に守られおるごとく小さき八つ手の花開きたり
 
幾匹の働き蟻を殺めしや後ずさりする蟻地獄潰す
 

「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より  「思想の由来」

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8月14日(木)
 
「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より
http://www.izu.co.jp/~jintoku/utimura10.htm
 
原文は文語調、後藤人徳の口語訳および意訳の個所もあり。
 
「思想の由来」
 
思想は頭脳から生まれるものではありません、心情より生まれるのです、いや心情とい
 
うより、行為から生まれてくるのです。実際に行って感動し、感動して想い、想いて思
 
想となって口舌に上り、また筆尖に顕れるのです。思想が生まれるには時間がかかりま
 
すが、どのような場合であっても勇壮な行為を伴わないで、高潔な思想が生まれること
 
はないのです。

 
 

昭和萬葉集(巻五)(172)(昭和十五年~十六年の作品)  Ⅲ(9)

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8月14日(木)
 
昭和萬葉集(巻五)(172)(昭和十五年~十六年の作品)
 
講談社行(昭和55年)
 
Ⅲ(9)                              
 
はてなき戦線(9)
 
戦場にて(6)
 
対馬定男
 
汽車見ゆとの叫びにわれら声あげぬ幾月を山に戦ひて来し
 
田鎖 清
 
午(ひる)すぎの光さしこむ窓に向ひ戦闘報告書書きいそぐなり
 
堀川静夫
 
営長の机の上に読みさしの抗日建国綱領ありき
 
片山大蔵
 
片隅に囹圄(れいご)の兵は膝組みて営倉の窓霖雨(りんう)に暗し
 
渡辺寛重
 
マッチ無しとかこつ者もなし黙(もだ)しつつ兵はレンズにて煙草つけをり
 
(つづく)
 

原 昇遺歌集 「人生行路」(新星書房)(44)  雪また花

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8月14日(木)
原 昇遺歌集
 
「人生行路」(新星書房)より(44)
 
発行者:後藤瑞義
 
 平成元年~六年
 
雪また花
 
手に撫でて良き位置しむと誇りたる霊園の墓に君は今入る
 
ぬくぬくと想ひいづべし雪山をリフトに身をよせ吾娘と越えしは
 
人も花も焉りありとふ詩碑めぐり高原の桜さきいでんとす
 
削がれたる山の咲かせし桜うかべ鉄壁のダム仁王立せる
 
よち歩きの曾孫つかめば蛙型の貯金箱に鳴る亡き人の銭
 
春さむき山路にさきがけ咲きそめる草の名三日へて思ひいづ
 
大学院入学の孫妻子(めこ)らとの四国移住の荷づくり手早し
 
 
(つづく)
 

日本の詩歌29短歌集(43)  尾上柴舟(3)

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8月14日(木)
 
日本の詩歌29短歌集(43)
 
中公文庫:1976年11月10日
 
尾上柴舟(3)
   
いつはりも少し交へて語るまでなれはてにけり世にも人にも
 
(以上『永日』より)
 
つけ捨てし野火の烟(けむり)のあかあかと見えゆく頃ぞ山は悲しき
 
死にてゆく人のあるにもかゝはらず事なく山の聳(そばだ)てるかな
 
山にして立てれば海は広く見ゆ広きがまゝに淋しかりけり
 
かの山を一つ越ゆれば都べの市のとよみをきくこゝちして
 
折々は悲しき顔をよせて見る壁の鏡の底ぐもりかな
 
かくてのみ生は続くと割引の札ある朝の電車にぞ居る
 
 
(つづく)

短歌表現辞典(天地・季節編)(8)  八月・季節(8)

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8月14日(木)
 
短歌表現辞典(天地・季節編)(8)
 
1998年2月10日発行:飯塚書店
 
八月・季節(8)
 
ばんか(晩夏)
 
夏深し、夏逝く季節である。暑さがつづくなかにも風光には夏の末が感じられるよう
 
になる。晩夏(おそなつ)。夏の末。
 
晩夏(おそなつ)の京都に入れば落すごときあつさの中の青き山河  金子薫園
 
売り売りて/手垢(てあか)きたなきドイツ語の辞書のみ残る/夏の末かな 石川啄
 
 
犬山の城より望む木曽川の瀬にたちさわぐ晩夏白波(ばんかしらなみ) 宮 柊二
 
献身のごとくたつ幹をいきいきと晩夏(ばんか)の蟻はのぼりゆきたり  岡部桂一
 
 
(つづく)
 

後藤人徳の短歌(114)  師逝く

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後藤人徳の短歌(114)
 
同人誌「賀茂短歌」より
 
8月15日(金)
 
           平成11年の歌のまとめ(3) 
師逝く
 
べうべうと木枯らしの吹く世紀末師走の三日師を失いぬ
 
すすきの穂靡かせて吹く木枯らしに逆らい歩む師の通夜の道
 
病床にわが失職を気遣いておりしとぞ師の通夜来て聞く
 
師の通夜の経響くなり蝉時雨師走の闇に降れるごとくに
 
師のみ魂(たま)宿れる家ぬち通夜の席べうべうと吹くこがらしを聞く
 
小柄には似ぬ師の遺骨太ぶととしたるを拾う明治生まれの
 
終(つい)の日も歌稿の添削なせしとぞ九十二歳の最後の教え
 
教えいる師のみ姿は活きいきと遺影の写真は何か指差す
 
凍てつける師走の空に星ひとつ蛍火のごと流れゆきたり
 
 
 

「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より   一閃光

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7月15日(金)
 
「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より
http://www.izu.co.jp/~jintoku/utimura10.htm
 
原文は文語調、後藤人徳の口語訳および意訳の個所もあり。
 
一閃光

わたしは、悩み悩んで暗闇をさ迷うことがあります。そこで、ある学者に助
 
けを求め、また別の学者に助けを求めます。わたしは、自問するようになり
 
ます、世の中にはたして真理と言えるものはあるのだろうかと。そして、わ
 
たしはますます分からなくなってしまいます。波の上に浮かぶ小舟のように
 
翻弄され、何も信じることが出来なくなってしまいます。そのような時、天
 
より稲妻のように一筋の光明が暗闇を照らしたのでした。そして、わたしの
 
悩みは黒雲が去ったように消えてしまいました。わたしは、思わずキリスト
 
の名を呼んでいました。「あなた様こそわたしの真理です」と。それからと
 
いうもの、わたしは盤石の上に立っているように、動揺することがなくなり
 
ました。
 
 

昭和萬葉集(巻五)(163)(昭和十五年~十六年の作品)  Ⅲ(11)

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8月15日(金)     
 
昭和萬葉集(巻五)(163)(昭和十五年~十六年の作品)
 
講談社発行(昭和55年)
 
Ⅲ(11)
 
はてなき戦線(11)
 
戦場にて(7)
 
野村 薫
 
掩蓋(えんがい)に玉葱(たまねぎ)の皮棄てに来し兵は北陸訛(なまり)
 
に答ふ
 
上原吉之助
 
駐留の兵ら替りて若くなり朝日をろがむもまれになりたり
 
 
大上春秋
 
白き守宮(やもり)壁の隙より這ひ出づる寂(さ)びれし部落(むら)の陣
 
に馴れたり
 
丸田良次
 
今日着きし補充兵等はズックにて造れる剣帯締めてをりたり
 
「戦場心理」の本には白兵場裏(はくへいぢやうり)のことのみありて平常
 
の永(なが)き生活にはふれず
 
(つづき)
 

原 昇遺歌集  「人生行路」(新星書房)(45)  命にて

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8月15日(金)
原 昇遺歌集
 
「人生行路」(新星書房)(45)
 
発行者:後藤瑞義
 
平成元年~六年
 
命にて
 
隆太郎大人(うし)やから率(ゐ)さして白浜の白秋歌碑に立たすうつしゑ
 
北原家訪ひし日はひきし愛し女児今はすずしき大学生なる
 
手植ゑやりし小賀玉の木はうぶすなの宮居にここだの蕾ささげつ
 
桂林の山水の印象吾娘(あこ)はいひアルバムかかへ翔けゆかんとす
 
鶯の声にはずみて甘夏を曾孫女剪りあふわがプレゼント
 
(つづく)
 

日本の詩歌29短歌集(44)  尾上柴舟(4)

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8月15日(金)
日本の詩歌29短歌集(44) 
 
中公文庫:1976年11月10日発行
 
尾上柴舟(4)
 
門の外を自働車もゆき馬車も行くわれたゞ一人たてるさびしさ
 
これもまた冬のとらはれ戸の外にわが外套(ぐわいたう)のおもたきを着る
 
赤土の坂の夕焼大根などつめる車の過ぎはてしのち
 
白堊(ちょーく)をばきゝとひゞかせ一つひく文字のあとより起るさびしみ
 
人いふまでにあらねど心なほ憂(うれ)へ足(た)らざる事すこしあり
 
今日(けふ)心やゝ行きにしはわが乗れる電車のすこし早かりしこと
 
倒れたる薬の瓶(びん)を起すさへさびしき秋になりにけるかな
 
(以上『日記の端より』より)
 
 
(つづく)

短歌表現辞典(天地・季節編)(9) 八月・季節(9)  ばんか(晩夏)(2)

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8月15日(金)
 
短歌表現辞典(天地・季節編)(9)
 
1998年2月10日発行:飯塚書店
 
八月・季節(9)
 
ばんか(晩夏)(2)
 
夏深し、夏逝く季節である。暑さがつづくなかにも風光には夏の末が感じられるよう
 
になる。晩夏(おそなつ)。夏の末。
 
竹の村全村ゆれててりかげる家居とぼしき北陸晩夏             加藤克己
 
たちかへる晩夏の記憶人はみな影をたふしてひたあゆみゆき       森岡貞香
 
国ほろびつつある晩夏 アスファルトに埋没したる釘の頭(づ)ひかる  塚本邦雄
 
晩夏ひとりこころ下降しやまざるを水の流れにうつされてゐつ       高松秀明
 
いますこし灯りを点すことなかれ晩夏のあをきこの夕つかた      川島喜代詩
 
金管のごときひぐらしの声も絶え晩夏茫たりわれとわが子ら      石川不二子
 
 

白浜短歌会8月分歌評下書きNO.1

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白浜短歌会8月分歌評下書き
 
A子さん
 
肌寒く重ね着すれば汗にじむ着替えに戸惑う初夏の朝時
 
里芋葉夜露を受けてころころと風にゆられて葉はすべり台
 
1.そうでした、朝方は少し寒く昼は夏日ということがよくありました。今日も、どうなん
 
だろうかと、朝戸惑っているのでしょう。この敏感さは貴重だと思います。「初夏の朝
 
時」と期間を入れるというか、一般化するというか、そこは注意したいと思います。常
 
に短歌は今この一瞬の思いを歌いたいものです。
 
参考:朝寒く重ね着すれば汗にじむ着替えに戸惑う今日も夏日か
 
2.これもよく分る歌です。里芋の葉のうえに落ちた露をまるで子供を見るように見て
 
いる作者のまなざしがやさしく感じます。「里芋葉」は「芋の葉」でいいのではないで
 
しょうか。短歌は平明・簡潔(やさしい表現)がよいといいます。たとえば、「里芋葉」
 
「夜露」「受けて」など細かい表現ですが、一考を要するように思いました。
 
参考:芋の葉はすべり台なりころころと子供のように露すべりゆく
 
草刈り              B子さん
 
方向がわからぬほどに草を取りふと見上げると花おくら咲く
 
汗だくで畑仕事に夢中なり芋のつる先草の中なる
 
1.  「方向がわからぬほどに草を取り」という表現はなかなか特殊なたとえです。下を
 
向いて草取りに夢中だったのでしょう。なんのきなしに顔を上げるとそこにオクラの花
 
が咲いていた。まるでご苦労さまとでもいうように…。と同時にあるいは、しみじみオ
 
クラの花を見た作者でしょうか、案外きれいな花なんだなあと思いながら…。単純な
 
うたですので、想像がかえってひろがるように思います。参考は、あくまでも勝手な想
 
像です。
 
参考:方向がわからぬほどに草を取り見上げる空に花おくら咲く
 
2.「畑仕事」とは具体的に何をしていたのでしょうか。前の作品は草取りだったので
 
すが。これも草取りだったでしょうか。汗だくで草取りに夢中になって芋のつるの先が
 
草の中にあったのを切ってしまったか取ってしまったか。私の勝手な想像ですが、
 
「芋のつる先草の中なる」というところに何か思いがこもっているのでしょうが、ちょっ
 
と分りません。「中なる」の「なる」についてちょっと気になります。文語「なる」は「なり」
 
の連体形です。ですから、「なり」(終止形)で終わりたいものです。文語と口語でよく
 
混同される「する」があります。「する」は口語の終止形ですが、文語ですと「す」となり
 
ます。口語の「する」の「る」で終止する形が、あるいは、文語の「なる」で終止する要
 
因なのかもしれません。もちろん名詞止があり、連体形止もあっていいのですが。つ
 
まり、「なる」と連体形で止めて余韻をもたせているのでしょうか。
 
参考:草取りに夢中になりて草中に伸びたる薯の蔓を切りたり
 
                 H子さん(新人)
 
アサガオの花数えては得意顔体ほどあるランドセルの子
 
書道展掲げられたし友の書に上野の森の樹々もバンザイ
 
自己中(じこちゅう)をたしなめるヒトいなくなり真似をせずとも無口になりぬ
 
1.「アサガオの花数えては得意顔」、アサガオを育てていて子供が毎朝その成長を
 
見守っていたのでしょう。今朝も花の数を数えまたひとつ開いたと得意顔をしている。
 
小学一年生とか年少の子供、これから学校へ行こうとランドセルを背負っている、そ
 
のランドセルは体が隠れるほどに大きい。そんな感じでしょうか。子供を優しく見守る
 
視線を感じます。
 
参考:アサガオの花数えては得意顔体ほどなるランドセルの子
 
2.友人が書道展を上野で催したのでしょうか。すばらしい書道展、上野の森の樹々
 
までもが万歳をして祝福をしているようです。友への深い思いが「上野の樹々もバン
 
ザイ」といった言葉が浮かんだのだと思います。一点、「掲げられたし友の書に」です
 
が、「掲げられたる友の書に」になると思います。「掲げられたし」ですと、「掲げられた
 
い」と希望の助動詞になると思います。
 
参考:書道展掲げられたる友の書に上野の森の樹々もバイザイ
 
3.これは、これでいいのではないでしょうか。作者のある面が出ているようにも思い
 
ました。ちょっと屈折的な表現というのでしょうか。わざとおどけた調子で表現してい
 
るのではないでしょうか。つまり、「自己中」(自己中心のこと)といったことば、「ヒト」と
 
いったカタカナの表記がそんな感じをさせます。亡きご主人への思いをこのような形
 
で歌にするのも良いと思います。「真似をせずとも無口になりぬ」という言葉に、亡き
 
ご主人のひととなりも浮かんできます。と同時に、亡きご主人へ語りかけているように
 
も感じます。感情語も例えもなくそのままの表現で思いを十分こめている、こういう歌
 
を歌いたいものです。
 
 
C子さん
 
午睡より覚めたる我は冷したるスイカをおいしくいただきました
 
口に出るぐちの一言チャックして静かに老後を愛されゆかむ
 
真夜醒めて腕の痛みに耐えられず医者の処方の薬のみたり
 
1.   おもしろい、といえばおもしろいです。「午睡(ごすい)」というこばです。なん
 
で、「昼寝」にしなかったのだろうか。なにかねぼけたような感じで歌を作っ
 
た…、まだ眠気がさめていないような感じを出したいために、逆に「午睡」などと
 
いうことばを使った。自分を茶化しているような感じもあります。「果報は寝て待
 
て」といった含みもわたしは感じましたが、どうでしょうか。
 
 2.これも、なんとなく底におもしろ味とともにあるさびしさといいますか、かなしみみ
 
たいなものも感じます。「ぐちの一言チャックして」といった表現の裏にそれを感じるの
 
です。そのことが、「静かに老後を愛されゆかむ」につながってゆくのです。
 
3.  ちょっとしたことですが、「真夜醒めて腕の痛みに」となっていますと、まず目が醒
 
めてそれから腕が痛くなったように感じます。そこで参考のようにしてみました。この
 
歌は、真夜中に腕が痛くなり耐えられなかったということが重要でしょう。もし家人と
 
住んでいたのであれば、ちがった風に詠むように思いました。「息子を呼んだ」とか
 
「家人を呼んだ」あるいは「嫁を呼んだ」とか色々なケースが考えられますが…。医師
 
の薬を飲んだというのが、やはり一抹のさみしさを感じるわけです。夜中に飲む薬と
 
いうのは普通はないでしょう。毎食後とか朝とか昼とか朝と夜とかに薬を飲むのが普
 
通です。痛みに耐えられず、医師の薬にすがるしか方法がない、ほかに考えが浮か
 
ばないといったことだろうと思います。ここに作者のかなしみがあるのだろうと推察し
 
ます。
 
参考:真夜中に腕の痛みに目を醒まし医師の処方の薬のみたり
 
                             (つづく)
 

白浜短歌会8月分歌評NO.2 

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白浜短歌会8月分歌評NO.2 
 
D子さん
 
真夏日の畑はさすがに暑かりし熟れたトマトがカンフル剤に
 
絵葉書のごとき風景眼の前にこの海だってジオの送り物
 
 1.よく意味は分ります。灼熱の太陽の下で畑仕事をしていたのでしょう。汗は流
 
れるように出て、熱中症の予防にと近くにあったトマトを丸かじりして元気が出たと
 
いうようなことだろうと想像します。「暑かりし」の「し」は要注意です。「暑かった(な
 
あ)」といった感じで、振り返って思い出しているのです。「暑かりき」(終止形)とす
 
るほうが正しいのでしょう。しかし、現在形にしたほうが臨場感がでるでしょう。
 
参考:真夏日の畑仕事に汗をかき畑のトマトまるかじりする
 
 2.「絵葉書のような短歌」という批評があります。ほめことばの逆です。それは
 
それとしまして、美しい風景、絵葉書のような風景が目の前に今ひらけています。
 
それは海岸というより青々とした海のようです。そして、作者はこの海だってジオ
 
の贈り物だと言っています。ジオとは何か、私のなかで今一つよく分りません。地
 
球科学の自然遺産ということでしょうか。
 
参考:白浜の海岸に今打ち寄する青海原もジオの賜物
 
                        E子さん
 
テレビにて四国三重の大風に悲しみあふれ吾の幸せ
 
今年又時を忘れずあじさいのむらさき色を庭にたゞよう
 
1.  分ります。ポイントは下の句、「悲しみあふれ吾の幸せ」です。悲しみと幸
 
せ、相反する思いが複雑です。だが、正直に思いを述べるのが短歌ですから、
 
こういう作品になるのだと思います。たいへん正直な作者の思いが読者に多分
 
伝わるでありましょう。
 
ただ、なるべく、事実を事実のままに詠む訓練も大切です。そのままの表現
 
の中に悲しみの感情や幸せな感情が自然と入ってくるのが短歌だと思いま
 
す。
 
参考:高知三重台風被害の報道も伊豆半島はそれてゆきたり
 
   2.短歌は平明な表現がよいとされます。この歌は「むらさき色を庭にたゞよう」
 
の「を」によって複雑な歌となってしまいました。「むらさき色が庭にたゞよう」ならすっ
 
きりします。それにしましても、「たゞよう」がかなり特殊な感覚だと思います。色がた
 
だようのであればなおさらです。しいて、この歌を理解しようと試みるのであれば、
 
「今年も季節を忘れずに紫陽花は咲きだした。その紫色を庭にめでながらわたしは
 
ただようように歩いているのです。」ということになるでしょうか。
 
参考:今年またあじさいの花咲きにけりむらさき色を愛(め)でてさまよう
 
                     F子さん
 
庭中をみどり豊かに伸び盛るこぼれ種なるキバナコスモス
 
しじみ蝶羽ふるわせて草むらを出たり入りたり我が目惑わす
 
病める目の悪しくならぬを念じつゝ般若心経佛前に()
 
1.これは、これで、作者の歌いたいところは表現されていると思います。キバナコス
 
モスの生命力のようなものが表われていると思います。「豊かに伸び盛る」と「盛る」
 
という言葉を使っています。その気持は十分分るつもりですが、花ではないので少し
 
抑えたいように思います。
 
参考:庭中をみどりに染めて伸びているこぼれ種なるキバナコスモス
 
2.まず「しじみ蝶」が出てきます。あまりぱっとしない、しじみのような色、形の地味な
 
蝶に作者は目を止めています。これはこれで素晴らしいことだと思います。そして細
 
かく、「羽ふるわせて」と描写しています。この「羽ふるわせて」というのは、羽を動か
 
して、羽をはばたかすことなんでしょうか。「草むらを出たり入りたり」という細かい描
 
写も気になります。「我が目惑わす」が作者のある思いであることは確かです。しかし
 
このことばが逆に全体的には浮いたようになっているように感じます。花が咲いてい
 
ないのにあたかも花盛りのようにしじみ蝶が舞っていて「我が目惑わす」ということで
 
しょうか。
 
参考:しじみ蝶キバナコスモスの草むらを出入りしている花見えねども
 
3.材料も、内容もよいとおもうのですが、いや材料、内容が良いからこそかもしれま
 
せんが、この作品になにか物足りなさのようなものを感じるのです。まず、「病める目
 
の悪しくならぬを念じつつ」この言葉は、わたしには特殊な感じがします。「病める目
 
が良くなるように念じつつ」なら分りますが。「病める目」ですから、すでに悪くなって
 
いるわけです。理屈を言っているようで申し訳ないですが、こういう表現が気になる
 
のです。白内障あるいは緑内障あるいは網膜剥離などの病名を入れるのもいいかも
 
しれません。それから、言葉で「病める」とか「悪しく」とか言うよりもっと大切な言葉が
 
あるはずだという気がします。痛いとか、かすむとかいろいろあるでしょう。それをわ
 
たしは、例えば「かすむ目で」としたのです。
 
参考:これ以上悪くならぬを念じつつかすむ目で読む般若心経
   
参考:緑内障悪化せぬこと念じつつ今日も唱える般若心経
 
参考:暗記せし般若心経目の痛みこらえ唱える仏壇に向き
 
                                  G子さん
 
緑もゆる庭の片隅ひそみ咲く白き花びらどくだみの花
 
郭公の鳴く声さやか朝の道聞きつゝ我は歩行にはげむ
 
1.  「緑もゆる」が少しあいまいなところがあるかもしれません。「萌える」は、芽が出
 
ることだとおもうのですが。「緑たける(長ける・闌ける)」なら分ります。しかし、「庭の
 
片隅ひそみ咲く白き花びらどくだみの花」は説得力がある表現と思います。リズムも
 
よいし、さりげなく「庭の片隅ひそみ咲く」が「どくだみの花」に非常にあっているように
 
思います。それは、作者自身の生きかたであったり、なにかそういうものとの関連をう
 
かがわせる余韻を感じます。
 
参考:緑たける庭の片隅ひそみ咲く白き花びらどくだみの花
 
2.  伊豆では、郭公は鳴かないと思いますが。ですからこれは、もっと涼しいところ、
 
軽井沢とか、山中湖とかを連想しました。病院に入ってリハビリをしているイメージで
 
す。体がご不自由になってかえって、郭公の声を聞くことができたというようなイメー
 
ジです。病気のお蔭でいままで経験できなかったことをすることができたというような
 
たいへんプラス思考を感じるのです。「郭公の鳴く声さやか」の表現にそれを感じま
 
す。作者は大変な足の手術をなさったと聞いています。その辛さ、苦しさ、そういった
 
ものがいっさい現れていない、さわやかな感じ、前向きな感じに感動を覚えるので
 
す。
 
        

後藤人徳の短歌(95) 駅伝

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後藤人徳の短歌(95)
 
平成11年の歌のまとめ(3)
 
8月16日(土)
    平成12年の歌のまとめ(1)
駅伝
 正月はホテル勤務に過ししも今年は解かれ駅伝を見る 
 七人の一家焼死の事故のニュースわが町の名とともに映さる
竹林の増えゆく里の山嘆く炭焼きびとの絶えて久しく 
水涸るる川に泳げる鮠(はや)の子の危うきさまをしばし眺める
ユーラシヤ大陸のごと横たはりところどころが赤き夕雲
 

「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より   さらに良いこと

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「内村鑑三所感集」(岩波文庫)より
 
原文は文語調、人徳の口語訳および意訳の個所もあり。
 
8月16日(土)
 
さらに良いこと

悪を矯正するのは良いことです、しかし善を勧めるのはさらに良い
 
ことです。壊すのも良いでしょう、しかし築くことはさらに良いこ
 
とです。ののしることも良いでしょう、しかし教えることはさらに
 
良いことです。憎むことも良いでしょう、しかし愛することはさら
 
に良いことです。「なんじ悪に勝たるるなかれ、善をもって悪に勝
 
つべし」との教えのように、キリスト信者は常に積極的に世の中の
 
改善を計るべきです。
 
 
 
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