8月16日(土)
昭和萬葉集(巻五)(170)(昭和十五年~十六年の作品)
講談社発行(昭和55年)
Ⅲ(11)
はてなき戦線(11)
歩哨・動哨(3)
坂本其水
山頂の歩哨に立つと登りきて屍臭(ししう)しるきを僚(とも)も言ひ出づ
石川信夫
哨楼の夜風は寒しわが友ら妹をかなしと言ひて寝(ぬ)るらむ
望楼に暗(やみ)を見張つて原隊の酒保(しゆほ)の大福をおもへりあはれ
夕月夜を分哨にわれらいそぎけり石橋の彫りも見て渡りつつ
朝の野を分哨ゆかへり来(きた)るときつき来る野犬の頭に霜あり
村上寅次
歩哨交替終ればふかき草ふみて夜霧に冷えし体をはこぶ
渡辺寛重
赤黒く雲に映(うつ)れる砲火をば遠くに見つつ動哨をしぬ
(つづく)